photo by Hiroyuki Hirai

由布院駅舎に寄り添う建築

坂 茂

磯崎新氏設計の由布院駅舎の隣に建物をデザインするのはとてもチャレンジングだ。この中央コンコースのタワーを中心に左右対称(?)にウィングが広がるシンボリックな建築とコンピート(競争、対立)することなく、しかし迎合することなく、独自の主張や空間体験を持ちつつ隣に佇む形態として、悩んだあげく、結局単純な直方体を選んだ。これを構成する構造は森のような“Y”の字型の立体的な木造柱を考えた。しかも日本の木造技術でできる2次元曲げのみの集成材部材を組み合わせた柱と屋根構造とした。

その木造の屋根の下は、道路側からも建物の向こうに列車が見え、また列車の窓からも街が見えるようガラスのボックスを差し込んだ。その内は、とても開放的な由布院そして九州全体の観光情報を提供する。観光客、市民、職員が混在して出会いコミュニケーションする場である。

入口から内に入ると2階へ上る緩やかなスロープがあり、空間を体験しながら2階の「旅の図書館」と、由布岳が望める展望デッキへと導かれる。そしてこのデッキは駅舎建築を鑑賞するにもちょうど良い位置となっている。そこで、由布院駅舎建築をじっくり見たことのある人は駅舎の変化に気づくかもしれない。実は元々の建築は何故か左右対称でなく左側のウィングが少し短くなっていた。そこでこの機会に、磯崎氏の許可を得て左のウィングを左右対称になるように延ばし、洗面所を充実させた。内装デザインはこれまでJR九州の列車をデザインしてこられた水戸岡鋭治氏にお願いした。

これから完成後に、我々のコンペ案の提案に基づき、現在観光客と一般車、観光バスの増加により混乱している駅周辺交通も改善され、駅舎とペアで世界中から観光客が訪れる由布院に相応しい街の顔となるであろう。